重力に戯れる愉しみ

最近はフリークライミングばっかり。

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鋸岳~甲斐駒ヶ岳縦走 2010年8月28~29日(1日目)

思い起こせばもう 6 年以上も前でしょうか、2 本足だけの山歩きになんとなく飽き足らなくなって、バリエーションっぽいルートに目が向いた頃のこと。鋸岳の縦走に挑戦してみたいという気持ちがフツフツと沸きました。ロープワークを身に付けようと思ったのもそれがきっかけでした。

しかしまあどういうわけかタイミングの悪いことに、ちょうどそのしばらく後に小ギャップや鹿窓の直下のルンゼに立派な鎖が設置されたことを耳にして、「あ~、普通の縦走路に成り下がってしまったのか、つまんないな」と思ったとたん、興味が急に薄れてしまいました。

その後、鋸岳に足が向かうことはなかったのですが、久し振りに夏のテント泊登山に調子づいている今シーズン、鋸岳の縦走を思い立ちました。

  • 日付: 2010 年 8 月 28 日(土)
  • 天気: 晴れのち霧、夕方から晴れ
  • ルート: 戸台駐車場~角兵衛沢出合~角兵衛沢のコル~第 1 高点~第 2 高点(テント泊)

戸台へ自分で車を運転して入ったのは初めてですが、予想以上に中央道・伊那インターから近いという印象です。ここ最近の山行は、登山口までのアプローチがやたらと長いことが多かったので、それらと比較すればのことかもしれませんが。

夜半過ぎに到着した時には私の車 1 台だけでしたが、夜明け頃に何台か立て続けに車がやってきて、その音に目を覚ましました。

戸台駐車場

早朝の戸台駐車場

出発準備をしていると、鋸岳を縦走するという 2 人連れが 1 台車を置いて、もう 1 台で仙流荘に向かおうとしているところでした。バスで北沢峠に入り、甲斐駒から鋸へ縦走するとのこと。「じゃあ、明日どっかですれ違いますね」、「お互いお気を付けて!」と挨拶を交わしました。

甲斐駒

戸台川の深い谷の向こうには甲斐駒が

5:53 戸台駐車場

「仙丈ヶ岳・東駒ヶ岳」の道標に導かれて出発です。

「仙丈ヶ岳・東駒ヶ岳」の道標

「仙丈ヶ岳・東駒ヶ岳」の道標に導かれ出発

地図上では林道を歩くはずなのに、駐車場を出ると林道はすぐに影も形もなくなり、ただの河原になります。たびたび流路を変更する戸台川にグチャグチャにされてしまっているようです。

さっそく渡渉を強いられることに。

渡渉

渡渉を繰り返す

この後も渡渉を何度も繰り返しましたが、川の水量はたいしたことないので全ての箇所で飛び石づたいに渡ることができ、また靴の中が濡れることもありませんでした。

踏み跡が判然としない広い河原ですが、途中にある砂防ダムは右岸の林道で越えることを考慮して、基本的には右岸寄りにルートをとりました。

白岩堰堤

白岩堰堤

まずは白岩堰堤を右岸の砂利道で越えて・・・

第二堰堤

第二堰堤の右岸の階段

続いて第二堰堤は右岸にある階段を上って越えていきます。

第 1 号床固

第 1 号床固

第 1 号床固の手前で左岸に渡り、それからは所々に残る踏み跡を拾いながら進みます。

7:55 – 8:16 角兵衛沢出合

角兵衛沢出合の道標

角兵衛沢出合の道標

「鋸岳 角兵衛沢」とデカデカと書かれた道標があるので、出合の位置はすぐに判ります。対岸へ向けて指している道標の先には・・・暗い森の中に続いている登山道が見えます。

さて、対岸へは渡渉をしなければいけないけど・・・と川を見ると、この辺りはかなり水量が多い。

丸太を使って渡渉

丸太を使って渡渉

少しあたりを見渡すと、上手い具合に丸太が渡してある場所があったので、ありがたくそれを拝借。

ケルン

登山道入り口にあるケルン

右岸のケルンの横で初めての大休止。

このケルンのあたりは広く平坦な河原で、テントで一夜を過ごすと気持ち良さそう。その証拠に焚き火跡もありました。

出合のあたりはこんな河原

出合のあたりはこんな河原

戸台から出合までは 300m ほど標高差があるはずですが、距離が長いのでほとんど登った気がしません。一転してここからは怒濤の急登が延々続くので、しっかり水分補給とエネルギー補給しました。さて、冷たい川で顔を洗って登り始めるとしますか。

しばらくは暗い森の中

しばらくは暗い森の中

すでに陽は高く昇り河原では暑いくらいですが、暗い森の中は涼しく、どことなく秋の気配も感じられます。

「大岩小屋へ」と書かれた古い標識

「大岩小屋へ」と書かれた古い標識

こんな人通りの少ないルートとはいえ、登山道整備はしっかりされているようです。まだ新しいオガクズが所々に散らばっていて、チェーンソーで立木の刈り払いがされていることが判ります。

10:05 – 10:28 大岩下ノ岩小屋

右上に巨大な岩壁が見えてくると、そこが大岩下の岩小屋だと判りました。

岩小屋が見えてきた

ガレ場の上に岩小屋が見えてきた

岩小屋の少し下で樹林帯を抜け出て、ガレ場をひと登りすると岩小屋に到着。

水場

チョロチョロ水が垂れているだけの水場

アテにしていた水がなかったらどうしようかと心配でしたが、チョロチョロ細いながらも水が出ていたのでひと安心。明日の分も含めて 5 L のポリタンクを満たしておきます。満タンになるまで 10 分くらいはかかりました。

テントを張るならこのザックの周辺に

テントを張るならこのザックの周辺に

この岩小屋、来てみるまではもっとドッかぶりの岩の下というイメージでしたが、案外そうでもありません。テントを張るという記録をしばしば目にしますが、テントを張るには狭いしジメジメしているし、快適に泊まれる気がしません。次回縦走するにしても私はここには幕営しないでしょう。

ここから上はひたすらガレ場の急登です。5 L 満水にしたポリタンクがブレーキになり、なかなかペースが上がりません。

角兵衛沢のガレを下る単独行の方

角兵衛沢のガレを下る単独行の方

岩小屋の少し上で今日初めて人とすれ違いました。第 1 高点まで戸台から日帰り往復してきたそうです。

ガレをひたすら登る

ガレをひたすら登る

体重を少し乗せるとすぐに崩れ落ち、なかなか歩が進まない蟻地獄のようなガレに苦労していると、後から単独の方が追い上げてきました。戸台から日帰りでやってきたとのことで、軽荷のハイペースで追い抜いていきました。ああ、荷が軽いってうらやましい・・・。

角兵衛沢はイヤというほどガレばかりですが、右側には低木が所々あり、踏み跡が付いているので、できるだけそれをたどります。

やっとコルが見えてきた

やっとコルが見えてきた

12:43 – 12:55 角兵衛沢のコル

コルから角兵衛沢を見下ろす

コルから角兵衛沢を見下ろす

出合からコルまで標高差 1300m ほど。コルに登り着けば、ひと仕事やりとげたという感じで、ホッとしてしまいました。残念ながらこの頃になるとすっかりガスに覆われてしまいました。

コルから第 1 高点を見上げる

コルから第 1 高点を見上げる

コルの両側を見上げると、角兵衛沢の頭、第 1 高点のそれぞれに続く道はすさまじい急登であるのが判ります。さすがは鋸岳と呼ぶだけのことはあるなあ・・・という感じです。

第 1 高点へと登っていると、先ほど追い抜いた単独の方が下ってきたので、すれ違いざまにお喋りを。すると、その単独の方は富士見から釜無川経由で登ってきた方と会ったとのこと。なんでも、「富士見からのルートは本当は通行止めで、わざわざ警備員がいて入山を禁止している。ところが、今日はたまたま(?)ノーチェックで入山できた」というような話しだったそうです。

13:35 – 14:06 第 1 高点

さて、ひと登りで第 1 高点に到着。

せっかくの鋸岳最高峰ですがガスガスでなにも見えないのが残念。それでも信州側はスパッと切れ落ちていて、高度感には緊張させられます。

やっと第 1 高点に登頂!

やっと第 1 高点に登頂!

たしか、ここには山梨百名山の円柱型の山頂標があったはずですが・・・ものの見事に朽ち果てて、見るも無惨に二股に裂けています。もはや山名がまったく読めないほどに変わり果てた姿。

2607m 三角点ピークを望む

第 1 高点から 2607m 三角点ピークを望む

もう正午を過ぎていますが、今日は中ノ川乗越で泊まるくらいのつもりでいたので、まだ時間に余裕があります。のんびりガスが晴れるまで待ってみようかと思いましたが、なかなか晴れてくれません。

待っていてもしょうがないかと、シビレを切らして出発することにします。

ここからはいよいよ鋸岳の核心部。ヘルメットとハーネスを装着します。もはや鎖もあるから要らないだろうと思いつつも、念のため今回は Φ9mm × 30m ロープも持ってきました。

第 1 高点からヤセ尾根を下るとすぐに小ギャップへの下降点に到着。

小ギャップを覗き込む

小ギャップを覗き込む

下を覗き込むと・・・「なんだ、全然たいしたことないじゃん!これだったら慎重に行けば鎖に頼らずクライムダウンだけでも OK では?」。

数年来の幻想が崩れ去った気がしましたが、せっかくロープを持ってきたので、ここは懸垂下降とします。

エイト環にロープをセット!

エイト環にロープをセット!

支点はしっかりボルトで打ってあり、しかも懸垂下降用にご丁寧にカラビナまで残置してあるので、それを使います。

懸垂下降してから見上げる

懸垂下降してから見上げる

ロープを支点にセットして・・・スルスル降りると数秒で小ギャップの底へ。あっけないもんですなあ。

14:41 – 14:45 小ギャップの底

改めて底から見上げれば、逆層の岩肌でホールドがとりにくく、イヤな感じなのは判りました。ロープを使わない場合、ここは鎖がないとちょっと厳しいかも。「クライムダウンだけで OK」という前言はちょっと言い過ぎかな・・・。セットしたロープから判断するに、落差は 10m 弱というところでしょうか。

小ギャップの底からの登り返し

小ギャップの底からの登り返し

底からの登り返しはたいしたことはありません。鎖は付けられていますが、左側の草付きにある踏み跡をジグザグに登れば楽なものです。

小ギャップから登り返すと尖った岩のナイフリッジになっています。

ナイフリッジを乗越して甲州側へ

ナイフリッジを乗越して甲州側へ

これを甲州側へ乗越して踏み跡をたどります。

さらに稜線が落ち込んだところを目指すと

さらに稜線が落ち込んだところを目指すと

それから稜線の落ち込みへ登って行くと・・・岩稜に開いた大穴がいきなり眼前に現われます。

鹿窓

鹿窓

そう、これが鹿窓です。

ちょうど人ひとりがくぐれる大きさの鹿窓・・・よくもまあこんな穴が自然に開いたものだと感心してしまいます。

信州側の鹿窓ルンゼを下る

信州側の鹿窓ルンゼを下る

鹿窓から下方のルンゼには鎖がかかっていますが、傾斜もたいしたことはないのでクライムダウンで問題ありません。今回はロープを出さずに鎖に時々すがりつつ、クライムダウンしました。ただし、岩肌が脆くてつかむとすぐに抜けてしまってホールドしにくいので、面倒くさがらずロープを出して懸垂下降した方が楽だと思いました。ロープが短くても、鎖の途中を支点にすれば連続で懸垂下降できます。事実、鎖の途中にはスリングが残置してありました。

いったん右手の草付きに回ってルンゼを横断する

いったん右手の草付きに回ってルンゼを横断する

ルンゼを下降する途中で左側のバンドへトラバースするのですが、これはすぐに上からどこであるか判りました。ただ、ルンゼを真っ直ぐ下るのではなく、いったん右側の草付きを通る踏み跡で高巻きしてからルンゼを横切って、バンドへトラバースした方が楽です。今回はそのルートで行きました。

細いバンドのトラバース

細いバンドのトラバース

バンドを進むと大ギャップの手前でちょっとイヤな感じの場所の通過があります。足許が細く右側が切れ落ちていています。ここは慎重に通過しました。

大ギャップの底

大ギャップの底

いよいよ大ギャップにたどり着いたわけですが、事前の情報が頭から吹っ飛んでしまい、どういうわけか大ギャップの底へ向かおうとしてしまいました。鬼のようなガレで登りにくいし・・・これがルートなの?という感じで。

ガレ場を横断して草付きへ

ガレ場を横断して草付きへ

冷静に思い直してルンゼ下方を見ると、踏み跡が見えます。「あ、そうだった、第 2 高点へは信州側から巻いて登るんだっけ」。

気を取り直してルンゼを下って左方の踏み跡へ進むと、すぐに第 2 高点へと登る斜面になります。

第 2 高点への登り

第 2 高点への登り

真っ直ぐ見上げると左側の岩壁沿いに登るように見えたので、そのとおりに登りましたが、実のところは、上の写真の矢印のようにもっと右側の草付に正規ルートがあり、そちらの方が楽だったようです。

16:20 第 2 高点

第 2 高点から第 1 高点を振り返る

第 2 高点から第 1 高点を振り返る

ようやく空も晴れ上がってきました。低木帯から抜けてガレ場を登ると第 2 高点に到着。

中ノ川乗越まで下ってもたいして時間はかかりませんが、もうそろそろ良い時間だし、事前情報どおり、第二高点の山頂から一段下がるとちょうど 1 張り分のテント場があることが判ったので、開放感にあふれたこの場所を今夜の宿とします。

今夜の幕営地は、甲斐駒を望む最高の展望台

今夜の幕営地は、甲斐駒を望む最高の展望台

テントを張って、山頂から周りの景色を眺めてのんびり。それにしてもここからの甲斐駒の姿は素晴らしい。

夕食の準備中

夕食の準備中

仙丈ヶ岳を眺めながらラーメンの準備。夕日に染まりゆく景色の中で夕食を楽しみました。

第 1 高点

夕日に染まった第 1 高点

薄紅色の雲に彩られた甲斐駒

薄紅色の雲に彩られた甲斐駒

日没

西の空を美しく染める日没

持ち上げた焼酎をチビチビしながら、夕暮れ時までずっと 360 度の眺望を楽しむことができて、最高の時間を過ごしました。

2 日目の記録に続く。

中央道・伊那インターから

これまでのコメント

  1. ケンモリ より:

    はじめまして、おじゃまします。
    行きたいな~と思いつつ2年くらいたってしまった鋸岳、大変参考になりました!
    おかげさまで気分が盛り上がってきたので今年は実行したいと思います。
    明日は大好きな北岳に登りに行ってきます。
    ありがとうございました!!

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