重力に戯れる愉しみ

最近はフリークライミングばっかり。

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インサートナット加工

今週末はドリル片手に、板に穴ほじくっておりました。

いやまあ、作業の主目的は、なぜかこんな時期なのに在庫があって、しかも格安で手に入ってしまった例のブツにバインディングを付けることだったんですけどね。

「こんな硬派な板、お前みたいなヘタクソに使いこなせるのか?」ってツッコミが入りそう…。ま、身の程知らずは自分が一番承知しております。

例のブツ

例のブツ

ブツ自体には G3 Onyx の Mounting Plate を付けるだけ。Onyx 本体は Bent Chetler と共用することになります。バインディング本体の使い回しができるのは Onyx のメリットです。

んでもって、ここからがこの記事の本題なのですが、ついでに別の板の「AT/テレ・ハイブリッド化」もやっておきました。最近はあちこちのショップでインビス加工対応を謳っていますが、要するにそれと同じことです。

話は横にそれますが、山に入るようになって以来、実は私はテレマークしか履いていませんでした。それなのに、今のように AT をメインで使うようになったのには理由があります。

残雪期のザラメを滑るだけの頃は特になんの支障もなかったのですが、だんだんパウダーを滑る機会が増えてくると、テレの弱点が露呈してきました(当時の私のテレ板がセンター 80mm 程度と細かったので、余計に不利だった)。

  1. ラッセル時に板が雪面に浮いてこない
  2. 滑走時に引き足側のスキーが深雪に突き刺さる

これらは、結局のところ、カカトの上がりを戻そうとする(= カカトを上げている時にスキートップを下側に押し込もうとする)バネ性を持ったバインディング、ブーツを使うテレマークでは、回避できない現象なんですよね。昔の3ピン・バインディングより現在主流のケーブルタイプではさらに顕著です。

1のラッセルに関して言えば、Black Diamond O1 や Voile Switchback などのツアーモードを備えたバインディングを使用すれば解決します。

しかし、2の突き刺さりについては、浮力の大きい太板を使うなど改善策はあると思いますが、テレマークである以上、原理的に完全に解決することは難しいはずです。もっとも、熟練者の方々は内足メインにして外足は添えるだけにするような技術でカバーしているようですが。

で、大して技術もない私は道具に頼ろうと考えるわけです。つまりティップロッカーが突き刺さり対策に有効であろうと。

もはやテレマークが軽さでのメリットさえも失っている現状に鑑みれば、私がテレマークを再び主戦力に据えることは今後ないでしょう。一方で、あのテレマークターン独特の気持ち良さは捨てがたく、嗜み程度に続けたいとは思っているのです。

…というわけで、シーズン末期につき強烈に今更感はありますが、深雪で快適にテレマークを楽しめるようにすることが、今回の改造の目的です。

いかんいかん、脱線話が長くなった。閑話休題。

ハイブリッド化改造の話に戻りましょう。餌食もとい実験台は CRJ です。CRJ ならフレックスが柔らかいので、テレマークでも扱い易いはず。

TLT Vertical ST on CRJ

TLT Vertical ST on CRJ

まずこちら、現状の CRJ。付いている TLT を外します。

作業の目的は、TLT とテレマークのどちらのバインディングも付けられるようにすること。いつでも付け替えが可能になるよう、インサートナットを埋め込みます。

エンザート

エンザート

インサートナットとして、以前に杉本産業から通販で買ったエンザート(内径M5、外形M8)を使用します。今回は手元に使い残しがあったのでエンザートを使いましたが、本当は Quiver Killer や Binding Freedom などのスキー専用に作られたインサートナットの方が、以下の理由によりお奨めです。

  • コップ状の構造なので、水分が板のコア材に浸透しない(エンザートは筒状なので、文字どおり筒抜け
  • 下穴を掘る深さが、通常のバインディング固定用木ネジの下穴と同等の9.5mmでOK(エンザートは11mm程度掘る必要あり)

板によっては11mm掘ると結構きわどい場合もあるので、9.5mでOKであるのは使い勝手が良い。さすが、スキー専用ナットだけのことはあります。私も次回購入するときは専用品を選ぶつもりです。

さて、具体的にエンザートを埋める作業について。まず、さきほど外した TLT 用のインサートナットを作ります。

下穴深さ11mm

下穴深さ11mm

下穴はΦ6.5~7のドリルで開けます。エンザート自体の長さ10mmあるので、余裕を見て11mm程度まで掘ります。ここで余裕を取らずにエンザートを打ち込むと、ソール側が盛り上がったりする場合があるので要注意。

メタルが入った板の場合、あらかじめタッピングを切っておかないと厳しいと思います。今回使ったエンザートはM8×1で切ればOK。

メタルなしの板の場合、通常タッピングは必要ありません。CRJ はメタルなしなので、下穴に直接エンザートをネジ込みます。

自作ジグ

自作ジグ

本当はエンザート専用のジグがあるらしいのですが、私は写真のような自作ジグを使って埋め込み作業を行っています。ジグといってもなんてことはなく、M5のボルトにスペーサーとしてナットをはめて、スキー板にエンザートを埋め切ったところで止まるよう、ワッシャーをストッパーにしているだけのことです。

エンザートをネジ込む

エンザートをネジ込む

前述のようにエンザートは底が抜けているので、下穴のシーリングをやっておくべきです。フォームコアならあまり気にすることもないかもしれませんが、ウッドコアの場合、シーリングを怠るとコアに浸透した水分が膨張し、トップシートの剥離などの弊害が発生するという話も聞きます。私はシーリングと接着力の両方を期待して、プロ用アロンアルファ(耐衝撃タイプ)を下穴に垂らしていますが、本当はエポキシ系の方が良いかもしれません。

エンザートのネジ込みはチマチマやってはいけません。一気に休みなく奥まで押し込むのがコツです。

…といった感じで TLT 用のインサートナット作成完了。

次に、テレマークバインディング用のインサートナット作成に取り掛かるわけですが、はて、どの位置に付ければ良いものやら??

というのも、ノーマルキャンバー&テール真っ直ぐという昔ながらの板なら「コードセンターに3ピンを合わせる」という金言も役に立つでしょうが、CRJ みたいにツインチップ&前後ロッカーの板の場合、どうしたものか。

そう思ってグーグル先生に訊いたら、すぐに “How to mount 4FRNT skis with telemark bindings” という 4FRNT スタッフのブログエントリーを発見。曰く、「メーカー様が決めたブーツセンターにテレブーツのセンターを合わせりゃ良いのさ(超意訳)」だそうな。

「エェェ?それってアルペンと同じ位置じゃん。ホントにそれで良いの?前過ぎじゃない?」とは思いましたが、とりあえず今回はブーツセンターに合わせてみることに。

まあ、不満だったらセットバックすれば良いんだしねwww(かくして私の所有板は無惨に穴だらけにされていく…)。

テレ用インサートナットの下穴作成中

テレ用インサートナットの下穴作成中

ちなみに、板の上に乗っている透明な板は穴位置のテンプレートです。アクリル板で自作しました。穴位置寸法は北米規格(ひと昔前の K2 テレ板に用意してあったインサートナットと同じ)にしてあります。

以上、インサートナット化の一連の手順でした。バインディングの固定はホームセンター等で普通に売っているM5のボルトで可。できれば、しっかりトルクがかかるよう六角レンチポジドライブで締め付けるボルトを使うとベターです(Quiver Killer で Fastener Kit として用意しているM5ボルトは、写真で見る限りポジドライブのタイプのようです)。

インサートナット化すると、引き抜き強度が飛躍的にアップするし、バインディングの使い回しが利くし、良い事ずくめですが、ここまでに書いたことは、あくまで私自身が自己の判断で良かれと思ってやっている作業に過ぎません。内容とそれがもたらす結果については一切責任をとりません。私は無責任~。

ただ、ユーザー自身がバインディングを取り付けること自体は、もっと普及して良いと私は思っています。せっかくショップに依頼しても、案外荒っぽい仕上がりでがっかりすることがあるので。とくに Tech バインディングの場合、ヒールピースのピンとブーツの穴がぴったり一致していないと誤開放しやすくなるので、私は自分自身が納得できる仕上がりにしたいのです。安全のために。

テレバインディング on CRJ

テレバインディング on CRJ

そんなこんなで、じゃじゃーん。CRJ テレマーク仕様の完成!北米仕様の穴位置寸法なので、見てのとおり Switchback と Targa のどちらも装着OK!

けど、やっぱりどうもセットフロントし過ぎに見えちゃうなぁ…。コードセンターから9cmも前付けとなっております。ま、良いか悪いかは実際に滑って確かめてみんべ。


これまでのコメント

  1. たかや より:

    あわわ…、”例のブツ”買っちまいましたか~!  「しばらく買い物はしない」 なんて話はどこへやら?(爆)
    今週はダブルお披露目会っすね? いや~楽しみ。

    で、加工方法を詳しくご紹介くださり、ありがとうございます! さすが、ヤル気のある人は滑りだけでなく色んな事に精通してますね。 私のほうは今回は加工屋さんに出しますが、機会を見てボロ板などで練習してみます!

    • ryo より:

      ぎゃ~、バレてしまいましたね(しらじらしい)。まあ、私の「買う買わない」は話半分に聞いて下さいw

      そうそう、今週末は偶然にもダブルお披露目になっちゃいますね。私もたかやさんの新兵器を早く見たい!楽しみにしてます。

  2. maoyuki より:

    こんにちは
    イヤー、感心しました。よくやりますね。
    先日お会いしてこの話題に触れた時、
    実はインサートナットとかエンザートとか・・少し???だったのです。
    それって機械締結部品で言うヘリサートのことじゃない。ちがうかな?
    ねじ込み治具や穴あけテンプレートまでご用意されてるとなると
    微塵も間違えたくないこだわりが有り有りですね。もう敬服します。
    次回はタカヤさんのスプリットと共演になりますね。
    しかし、かっ飛び系のみなつりさんのテレターンはイメージしにくいなあ。
    オレも興味津々です。

    • ryo より:

      maoyuki さん、こんにちは。

      すみません、なぜか maoyuki さんのコメントがしばらくスパムコメント置き場に入りっぱなしになっていました。

      さすが、詳しくご存じですね。エンザートは埋め込み雌ネジで、たしかヘリサートも似たようなものだったと思います。実はエンザート埋め込みは数年前に山で会った方に教えて頂いたんですが、その後 Web で検索したら同じ事を考えている人達がいて、いろいろ参考になりました。

      穴の開け過ぎは危険ですが、ある程度間隔を開ければ、結構たくさん埋めても大丈夫みたいです。まあ、だからといって、安易に人様には奨めようとは思いませんが。板自体のことを考えたら、各種バインディング取り付け穴を掘ったライザープレートを、アルミ板かなんかで作るのがベターなんでしょうね。実際、そういうプレートが、既に上述の Binding Freedom で商品化されているみたいですよ。

      次回は、例のブツを試したいので、CRJ の実戦投入タイミングは後回しになっちゃいそうです。

  3. Nao より:

    はじめまして。
    CRJをテレマークではいてみようと思ってこちらのページを見つけました。
    CRJの長さは188センチで、パウダーメインでの使用を考えています。
    そこで取付位置についてお聞きしたいのですが、コードセンターの9センチ前での乗り味はどんな感じでしたでしょうか?

    • ryo より:

      意外と違和感はありませんでした。ただ、作業後 CRJ に G3 Targa を付けて滑ったのは、ピステンがかかったスキー場の斜面だけなので、深いパウダーだとちょっと感触が違うかもしれませんが。この記事の例は実験的にやってみただけなので、やっぱりある程度はセットバックした方が良いのかも…と個人的には思います。

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